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【長場雄×東京茶寮】日本茶とイラストによる、ミニマルな世界観が目指すもの

2020年02月18日

by 煎茶堂東京編集部

「LIFE-SIZE TEA GIRLS」は、2017年に実施した、いま最も注目されるイラストレーター長場雄氏と、東京茶寮のコラボレーション企画。長場雄氏と東京茶寮のクリエイティブ・ディレクター青柳・谷本(LUCY ALTER DESIGN)との対談を実施。アートワーク制作の打ち合わせから、ハンドドリップ日本茶のテイスティング、生活における日本茶の位置付けとイラストレーターとの共通点などトピックは多岐に渡った。(聞き手:加藤将太)





―東京茶寮と長場さんのコラボレーションは、そもそもは日本茶ブランド「green brewing(東京茶寮)」のキービジュアルを長場さんに依頼したことに始まりますが、まずは千利休がお茶をハンドドリップするというキャッチーな作品に着地した経緯を教えてください。
谷本:そもそもがお茶屋さんではない僕らは、LUCY ALTER DESIGNというデザイン会社としてお茶の立場を変えたいということで、green brewingと東京茶寮を始めました。新しい切り口でお茶の魅力を伝えるために、キービジュアルを作ろうという話になり、思い切って長場さんにオファーしたんですね。長場さんのモノクロなのにインパクトのある線画は、僕らの中にあった無垢なイメージとマッチするはずだと。もともと利休を描いてほしいと考えていたので、せっかくだし利休がドリップしている絵が面白いんじゃないかなと。
―長場さんはこれまでにコーヒー関連のビジュアルを制作してきましたが、お茶のビジュアルを手がけたことには僕も驚きました。オファーをどう思いましたか?
長場:そもそもコーヒーよりも緑茶や日本茶を飲むことが好きな人間なので、かなり嬉しかったですよ。コーヒーはむしろ一生懸命飲んで勉強している感じですし、僕は典型的な日本人というか。極論を言えば、食べ物は寿司と天ぷらと蕎麦があればよくて。
谷本:はじめてそれを聞いた時は“本当かよ?!”って思いましたからね(笑)。やっぱりコーヒーやサンドウィッチ関連のビジュアルの印象が強いですから。

―長場さんがコーヒーよりもお茶を選ぶ理由って何が大きいんでしょうか。
長場:やっぱり慣れているから飲みやすいですよね。幼い頃から出かけて家に帰ってきたり、ご飯を食べ終わったりすると、必ずと言っていいほどお茶を飲むという環境で育ってきましたから。でも、仕事中はミネラルウォーターかコーヒーですね(笑)。今回のお話をいただいたときに、日本茶ってそもそも急須で淹れるものなのに、ハンドドリップで淹れると聞いて何を言っているのかを最初は理解できませんでした。だから結構突っ込んだんですよ。急須のように蓋をしなくて大丈夫なのか?、見た目だけお洒落にしているだけなのか?って。ドリッパーの方に利点があると力説されても、最初は疑っていましたからね(笑)。

谷本:当時は試作品しかないような状況だったので、今思うと怪しさ極まりないですよね(苦笑)。

―千利休がお茶をハンドドリップするというビジュアルは、お茶というトラディショナルな日本文化と、コーヒーカルチャーを彷彿とさせる現代感が見事に融合していると感じます。



長場:しっかりと現代にフィットしていかないと、本来の魅力が伝わらないかもしれないじゃないですか。それはあまりにも勿体ないから、この絵がお茶を知るための入口になればいいなと考えていて。あまり過去にとらわれないように、という意識はつねにありますね。たしかに僕には『POPEYE』とかのカバーイラストの印象が強いかもしれないけど、自分を縛らずに、それを超えられる新しいものを模索していて。だから、今回の東京茶寮での展示もチャレンジングなことをやってみたいんです。つねに一歩前へというマインドは生き方として単純に楽しいですよ。自分自身を疑うというか。自分が間違っていないかを確認する機会が必要だと考えていて。僕にとってのそれはInstagramの投稿だったりするんですよね。インスタではまったく描くものを決めていなくて、その時に描きたいものを素直にアップしているんです。

左から、長場雄氏、青柳、谷本。


青柳:たしかにそうですね。僕らは未だにお茶について勉強中の身ですが、お茶に向かっているマインドは生産者の方たちと同じでありたいと思ってます。作り手の想いを受け継ぎながら、お茶の魅力を知ってもらうために何ができるのかを追求していく。そのための新たな挑戦としても、コラボレーションは重要だと考えていて。



―東京茶寮はお茶を体験する飲食店ですが、長場さんは飲食店での展示経験はありますか?



長場:香港の元気寿司でやったことがありますね(笑)。



青柳:回転寿司店の海外店舗で展示するって振り切れていますよね。東京茶寮はミニマルな店舗ですけど、今回の長場さんの展示がアートを鑑賞する行為自体が美術館だけではないよね?という問いになればいいなとも思っているんです。ミニマルな空間・イラストで、ミニマルな体験をするということ自体が作品化しているなと感じますね。僕らのテーマのひとつが既視感を超える体験をつくるということなんです。



長場:僕も美術作品を美術館で見なきゃいけないという点にこだわりはありませんね。もともとアートが好きでそういった世界を見てきた人間なので、イラストレーターという職業は結果論なんですよ。

お茶を女の子に擬人化するというインスタレーション

―長場さんとの今回のコラボレーションの内容について教えてください。



谷本:東京茶寮はお店を飲み比べるイートイン専門なので、お客様はコの字カウンターで基本的に時間を過ごされるんです。バリスタがお茶を淹れて飲み比べを体験するうえで、何か新しい刺激を与えたいと思っていて。今後はお茶×カルチャーのペアリングをやっていきたいんですね。今回、長場さんにはお茶の種類を擬人化した女の子のイラストを描いていただきます。それで実際に長場さんにお茶をテイスティングして、それぞれの特徴から印象に残る3つの品種を選んでいただこうと。

長場:お茶好きなのに飲み比べなんてしたことがないですから。メニュー表にお茶の特徴がタイプ別に分かれているんですね。


青柳:香り・旨み・甘み・渋みでマトリックスを作っているんです。僕らは単一品種のシングルオリジンを中心に、個性豊かな希少品種を取り揃えていて。これまでの日本茶ってヤブキタという品種のブレンドがほとんどだったんです。それがシングルオリジンになるとこんなに個性が違うのかって、僕らもめちゃくちゃ驚きました。


谷本:産地の標高差も味に関係してきて、標高が高いと温度が低いので、寒暖差が生まれるんですよ。霧もかかってくるので、茶葉がゆっくり育ち甘みが出てくるんですね。それが山のお茶の特徴です。一方で平地には平地ならではの味わいがあります。今回は6種類飲んでいただいて、気になった3種類をチョイスしていただければと。


長場:わかりました。浅蒸しとか深蒸しってどんな違いがあるんですか?

谷本:お茶のプロセスとして、蒸す時間の長さが味を大きく左右するんですよ。コーヒーでいうと焙煎みたいなもので、浅蒸しだと茶葉が大きく残る感じ、深蒸しだと緑色の微粉がたくさん出るお茶になるんです。


長場:緑茶って日本にしかないものなんですか?


谷本:実は世界中にありまして、緑茶自体は抹茶やほうじ茶も緑茶って言われるんですね。定義としては不発酵茶というものが緑茶なんです。半発酵だと烏龍茶、全発酵だと紅茶なんですよ。日本茶の生産量ナンバーワンは静岡で、最も成長率が高いのが鹿児島です。鹿児島は暑くて平地ですけど、平地では機械が使いやすいので生産を効率化してすごく沢山作れるんですね。


長場:もともとお茶屋さんではないとはいえ、短期間ですごく知識が身に付いてますね(笑)。味も色もそうだけど、香りがここまで違うとは思わなかったです。1煎目と2煎目ではっきりと変わってくることに驚いたんですけど、淹れ方にどんな違いがあるんですか?

谷本:水色や茶葉の開き具合を見て楽しめるのはハンドドリップならではですね。香りは、1煎目は結構低めの70度の熱湯を注いでいて、テアニンなどの香り成分が感じられるようになっています。2煎目は80度に変えることでより渋みが表れてきて、微粉が出てくるので色味も結構変わってきます。2煎目のほうが苦味と渋みがあって、普段飲むお茶に近いですね。苦いのが苦手な人は温度低めのほうがいいですし、もっと言えば、水出しのほうが甘さを感じます。


長場:すごい世界だなぁ…。6種類を飲み比べしてみて、「いなぐち」と「おくひかり」、それから「さえみどり」を擬人化したイラストを描いてみようと思います。



―選んでいただいた3品種の特徴を教えてもらえますか?



長場:まず「いなぐち」は渋いですね。ちょっと男の子っぽいというか、ストレートな感じでさばさばしているのに気になっちゃう女の子。しゅっとしているから宝塚の感じかな(笑)。真矢みきとか天海祐希とか。


谷本:完全に同意です(笑)。


長場:「おくひかり」はピチピチとした感じがあって若い。広瀬すずかも(笑)。透明感といい清純な印象ですね。「さえみどり」は王道のアイドルだなぁ。



青柳:はっきりとしていて、センターを務められる感じですよね。

長場:今のAKB48のセンターはさっしー(指原莉乃)だけど、前田敦子の感じですね。キョンキョン(小泉今日子)みたいな正統派の感じがある。女の子を描くのはまったく問題ないけど、これをどういう形でアウトプットにするかが悩ましいですね。


谷本:お店の造りがコの字のカウンターなので、ここに等身大のキャラクターが何気なく座っている感じで描いていただきたいなと思っていて。



長場:表参道でやった「Study」というインスタレーションが等身大の女の子を描いたので、あのやり方を応用して、女の子がカウンター席に座っている感じに見せられると面白いかもしれない。そのタイプの絵は今のところないですし。



青柳:いいですね。僕は実際に「Study」を見ているのでイメージがつきやすいです。お客さんが座った時に擬似空間に見えるはずなので絶対に面白い。

イマジネーションを掻き立てる余白という共通項

―今回のコラボレーションの面白さは、飲み物のペアリングとして食べ物を選びがちなところにアートを選んでいるというところにもあると思っていて。



谷本:この場所はお茶を体験する場であり、いろいろな人が集まって刺激を与え合うプラットホームでもあってほしいと考えているんですね。時には展示空間となって、普段は主役のお茶が脇役になるというスタイルがあってもいいんじゃないかって。



青柳:お茶はトラディショナルな茶道と機能性のペットボトルという二極化になっているので、茶葉で淹れたお茶を意外と知らないというか。今改めて飲み比べすることからお茶に触れることで、もっと若い人たちに親しみを持ってもらえるのかなと考えていて。そういう意味では、この取り組みは僕らの仮説を検証する場なんですね。

―長場さんと東京茶寮の共通項をどんなところに感じていますか?

青柳:僕の一方的な仮説なんですが、長場さんの絵は余白の部分に想像力を残しているというか。僕らの店舗は白と黒で構成されたシンプルな空間でインフォメーションがほとんどない。お茶に集中してほしい反面、何もないからお茶のことを考えざるを得ないというか。そんな想像力を掻き立てる余白は共通しているんじゃないかなと思います。


長場:僕はもともとミニマルアートが好きなんですね。一見すると何もないように見えるけど、そこから勝手に自分が想像していくというアプローチが好きで、それがアート作品の正しい見方かどうかはわからないけど、すごくイマジネーションが豊かだなって感じています。それを自分の絵で表現できたらいいなというのはありますね。


谷本:一般の人たちにお茶の違いがあるということを伝えたいけど、僕らがバリスタとしてディテールを説明するよりも、お客様が“「いなぐち」と「おくひかり」は違うね”とか、感覚的に理解してくれる程度でいいんです。



青柳:やっぱり茶道とか格式がある文化って、どうしても肩肘貼るというか。僕らが開拓しているお茶の伝統と機能性の間にある余白部分って、お茶を押し付けがましく教えるとコンセプトがぶれるんじゃないかなと。長場さんのイラストによるお茶の擬人化というアウトプットは、お茶に触れるための入口として、こんなに品種があるんだということをイメージしやすいはずですし。



長場:今回は僕がお茶好きだからやりたいっていうこともありますけど、映画や著名人、音楽とか、自分の絵からモチーフのことを知って、興味を持ってくれたら嬉しいですね。こんな面白い世界があるということを自分の絵を通じて共有できたらいいなって。作家としては自分が好きなものを発信できるというのは本当に幸せなことだなと思いますね。

【長場雄×東京茶寮】LIFE-SIZE TEA GIRLS

概要 今最も注目されるイラストレーター、長場雄氏とのコラボレーション企画。長場氏は東京茶寮のイメージイラストを手がけ、お茶界のアイコンである「千利休」を描いている。動画やインスタレーション要素を含む意欲的な作品を発表している長場氏が、今回シングルオリジン煎茶の味わいから着想を得て、3人の等身大の女性を描く。展示期間中、イラスト作品と東京茶寮に「同席」しながらハンドドリップ日本茶の飲み比べができる他、イラストのモデルとなった茶葉の限定パッケージの販売も行われる。
展示タイトル 【長場雄×東京茶寮】LIFE-SIZE TEA GIRLS
期間 ※終了しました。(2017年10月24日(火) - 11月12日(日))